「ハッラ・イスバウー」、指をやけどした、という意味のこの料理。
レンズ豆とマカロニなどを煮込んで、ちょっと酸味を付いた甘酸っぱい味。
シチューのようでシチューじゃない。
この上ない未知の味、初めて食べたときは美味しいのかそうではないのか脳が混乱したものです。
でも、一口、また一口、吸い込まれていくような味わい。トッピングのカリカリパンが甘酸っぱい“シチュー”に夢中になっている隙間に時折登場しては、現実に引き戻すのです。
宇宙さえも感じるこの「ハッラ・イスバウー 」は、鍋で長い時間煮込む料理。調理の途中あまりにもおいしそうで、味見をしようと煮込んでいる鍋の中に指を入れて、やけどしてしまう料理というのが、その名前の由来です。
これはシリア料理として有名ですが、特にダマスカスの料理として知られています。
実は私がシリアで初めて教わったのがこの料理なのです。
料理上手なシリア人女性にシリアの料理の作り方を教えて欲しいとお願いしたところ、それじゃぁと、この「ハッラ・イスバウー」を教えてくれたのです。
「ハッラ・イスバウー」は一般的にはレストランではほとんど見かけません。少なくとも私はレストランで食べたという記憶はありません。
(ちょっと豪華目のお菓子屋さんでは、お総菜も売っていることがあり、そこで「ハッラ・イスバウー」も売っていることはありましたが)
もっぱら家で食べる、家庭でしか食べられない料理なのです。
この料理には肉は使われておらず、スパイスも使いません(使う人もいますが極少量なはずです)。
アラブ料理といえば、羊肉などを豪快に使い、スパイスを巧みに使う…などのイメージがありますが、むしろ逆なのではないか、というのが今のところ私が思っていることです。派手な料理が目立ちがちですが、このような素朴な料理が実に多い。
ダマスカスの旧市街にある古い中庭付きの住宅「バイト・アラビー」で、寒く薄暗い冬に(バイト・アラビーはとてつもなく冷えます)、この「ハッラ・イスバウー」を大鍋でグツグツ煮込む風景なんて、いかにもダマスカスではありませんか!妄想ですが…。
と思っていたら、アラビア語で書かれた「ダマスカス料理」という、ちょっと古い料理本には、
“この素晴らしい料理は特にダマスカスで有名である。私の母は大量に作り、家族や友人に配っていた。ダマスカスの人々は、春の日々にオレンジや橙やレモンの花の香りが広がる家に友人を招待するのです。”
と、さわやかな景色が描かれていました。
材料 レンズ豆 200g
マカロニ 150g
ザクロシロップ 大さじ 3
塩 小さじ 1 玉ねぎ 400g
オリーブオイル 大さじ 4 パクチー 60g
ニンニク 4 かけ
オリーブオイル 大さじ 2 薄焼きパン 1 枚 揚げ油
作り方 ① レンズ豆は軽く洗い、1.5ℓの水から柔らかくなるまで茹でる。
② 玉ねぎは 5 ミリ幅にスライスする。オリーブオイルで濃い茶色になるまで弱火で炒める。
③ レンズ豆が柔らかくなったら、マカロニを加える。塩、ザクロシロップを加え、時々かき混ぜながらマカロニ が柔らかくなるまで茹でる。水分が足りなくなれば適当に加える。
④ マカロニが柔らかくなったら、炒めた玉ねぎ半量を油と共に鍋に加える。残りはざる、またはクッキングペ ーパーの上に出し、油を切って冷ましておく(飾り用)。
⑤ パクチー、ニンニクはそれぞれみじん切りにする。オリーブオイルを軽く熱し、ニンニクのいい香りがするま で炒める。半量を鍋に加え、残りは皿に出し冷ましておく(飾り用)。
⑥ 薄焼きパンは適当な大きさ(1.5 センチ角ぐらい)に切り、きつね色になるまで揚げる(飾り用)。
⑦ 塩味、酸味を調製する。深皿に盛り玉ねぎ、パクチー、揚げパンを表面に飾る。
伝統的には小麦粉を水で練った生地を使い、タマリンドで酸味を付けます。
現在は手軽にマカロニで作る人が多い他、薄焼きパン(ホブズ)を使うレシピもあります。
酸味はレモン汁やクエン酸でも代用できます。
温かい状態で食べるほか、常温または冷やして食べることもあります。
厳密な決まりではありませんが、温かい場合はボールに、冷やして食べる場合は平たいバットに盛り付けるとよいでしょう。
トッピングは揚げパン、玉ねぎ、パクチー、ニンニクがお決まりです。
玉ねぎはサクサクしたフライドオニオンでも美味しいですね。
トッピングを省くのは厳禁です!この料理は3種類のトッピングをもって完成されます。
季節が合えば、ザクロの実やカリフラワーの素揚げなどをトッピングに加えても美味しいですよ。
独特の酸っぱさがいかにもシリア料理!です。