今のところ、私がいろいろな国に旅行に出かけて楽しみにしているのは、その国の料理や食文化を探ること。いや、楽しみにしていると言うよりは、むしろそれが目的で旅行に出ているのかもしれません。
単純に食べておいしい、だけではなく、その国の文化や制度、流通や流行など、料理や暮らしにまつわる背景なども気になるので、とても数日間の旅行では足りないのですが、そんな時間がない中で機会があれば是非やりたいのが、地元の人に料理を教わること。それも、外国人向けにアレンジされた料理教室ではなく、いつもうちで作る感じで見せてくれるところであれば、まさに願ったり叶ったり。
今回のウズベキスタンでも、幸運なことにそんな機会がありました。
教わるのは、基本的な3つの小麦粉料理。「マンティ」に「チュチュバラ」、そして「グンマ」です。
マンティ―はひき肉などを小麦粉の生地で包んで蒸したもの。チュチュバラはマンティ―よりも小さめで、茹でてあります。グンマはひき肉を生地で包んで揚げたもの。
この3つは外食でもよく見かけますが、同じ生地で作ることができて、家庭でもよく作られるのだそう。
英語とキリル文字のウズベク語で書かれた材料リストをもらい、じゃー、この材料を用意しといてねー!から始まった料理教室。
短い旅行の中で、お肉などを自分で実際に買うチャンスが巡ってくるとは。やっぱりきっちり用意された教室より、こういう方が私は好きだな。
まずは生地作りから。
小麦粉に、卵、水、油、塩を加えてよくこねます。
水は少しづつ、様子を見ながら加えます。
べとつかず、少し固めの生地です。
手をグーにして、上から押さえるようにして、それから、下から返して。固めの生地なので、結構重労働です。しっかり捏ね上げたら、ラップをして少し休ませます。
生地を適量とりだし、たっぷりの打ち粉をして、まずは小さめの麺棒で伸ばします。
ある程度の大きさまで伸びたら、細めの長い麺棒に持ち替えます。
ここからは、見る見るうちに薄く大きく広がっていきます。お見事!の一言。
そのコツは前と左右の三方向に生地を伸ばすように力を入れること。生地を麺棒に巻き付け、前に出しながら広げると同時に、転がす手は麺棒に巻き付いた生地の上をスライドするように、中央から端へと動かします。
なめらかで薄い生地の出来上がり。
マンティ用と、一回り小さいチュチュバラ用に正方形に切り分けます。
切り分けた生地は、乾かないようにラップに包んでおきます。
マンティ―の中身を作ります。
指定されたのは、牛ひき肉。最寄りのスーパーの量り売りのお肉カウンターで、渡された材料リストを見せて購入しました。
材料リストの英語には、単純に「牛ひき肉」と書いてあったのですが、どうやらウズベク語の方には「マンティ用牛ひき肉」と書いてあったようで、このひき肉の袋に貼ってあったラベルシールにも「マンティ用ひき肉」との記載がありました。
ほうほう。
日本でも、「豚しゃぶしゃぶ用」とか、「鶏モモから揚げ用」とか、用途に応じて切り分けてあるものがあります。エジプトにだって、一口大に切ってあるお肉が「ケバーブ・ハッラ(お鍋のケバーブ)用牛肉」という名前でスーパーなどに並んでいます。
こういう、地味だけどその土地では当たり前であろうことが発見できるのは楽しい。
牛肉の塊肉は、細かく切ってひき肉に加えます。
異なる2つの食感のお肉がポイントなのでしょう。
そして、羊のお尻の部分の脂。
これも細かく切ってひき肉に混ぜます。
調理の前に、少しだけ冷凍庫に入れていたのですが、なるほど、この方が柔らかくなりすぎず小さく刻みやすい。
しかし、こういうのが町のスーパーに当たり前にあるところが、やっぱり肉の国だなぁ、と思います。
お肉の準備ができたら、野菜を刻みます。玉ねぎ、赤パプリカを粗目のみじん切りにし、塩、こしょう、スパイスを加えてよく混ぜます。
スパイスは、おそらく市販のマンティ用ミックススパイス。
赤パプリカはなくてもよいけど、使うなら赤で、とのこと。
水を適量加えて、玉ねぎと肉をしっかり揉みこみ、練るように混ぜるのがポイントで、この作業をウズベクスタンでは「玉ねぎを殺す」と表現するのだとか。
これでマンティ―の中身は完成です。
正方形に切り分けた生地に、先ほどのひき肉を包みます。
生地の中央にひき肉を置き、向かい側の角を閉じ、更に側面の角を閉じます。ちょっと独特の形になります。
もう一つの包み方も教わりました。
長めに切った生地の上半分にひき肉をのせ、半分に折り、くるっと丸めます。
この形のマンティは、「グル・マンティ」というそう。ウズベク語でグルは花を表す通り、かわいらしいお花のようなマンティ―ができ上りました。
出来上がったマンティは、薄く油を塗った蒸し器のトレイにセットします。
沸騰した蒸し器にセットし、1時間蒸します。
次はグンマです。
中身は牛ひき肉と玉ねぎをフードプロセッサーでよく練ったもの。
味付けは塩、こしょうのみで、やはり水を加えてジューシーさを出すのがポイントだそう。
ピンポン玉サイズの生地を伸ばし、ひき肉を生地の半分に薄く塗り、折りたたんで縁を押さえてしっかり密着させます。
多めの油で揚げ焼きに。時々裏返して、こんがりしてきたら出来上がり。シンプル~。
これは、出来立ての熱々が最高にうまい!
生地はどこか軽めのパイのようでさえあって、中のひき肉はどちらかと言えば生地の引き立て役のよう。ひき肉を多めに包んだものもおいしいと思うのですが、これはひき肉の量、つまり、欲張ってたくさん入れないことがポイントのような気がします。
チュチュバラは、小さめの正方形の生地に、グンマと同じひき肉を包みます。
包み方は、シリアなどでおなじみの「シシバラク」と同じく、生地を半分に折り畳み、両端をくっつけるという方法。チュチュバラの生地は正方形、一方シシバラクの生地は円なので、出来上がりの印象は少し異なりますね。あと、チュチュバラは真ん中に少し隙間がある方がいいと教わりました。
塩を加えた沸騰したお湯で3分から10分茹でます。結構時間に開きがありますが、まぁ、途中食べてみて判断ですね。
茹で上がったらケフィール(ケフィア)に絡めていただきます。もちろんヨーグルトでも。
これは!シンプルで、つるつる、いくらでも食べられる!
水餃子とヨーグルトの組み合わせは、日本では奇妙かもしれませんが、割と広い地域で食べられています。エジプトでは一般的ではありませんが。
奥の赤いものは、すりおろしたトマト。これとみじん切りの玉ねぎを油で炒めたものがマンティのソースになります。
そうこうしているうちに、マンティが蒸しあがりました。
トマトソースとケフィールを添えて。
キュキュッとしたしっかりした生地は、薄いながらも、もっちり力強く、中のジューシーなひき肉の汁がこぼれることはありません。時折感じる羊の匂いはしつこくなく、それでも、その存在感は、生地の力強さに負けていません。
お花のマンティ「グル・マンティ」もかわいくできました。
おうちで作るウズベキスタンの小麦粉料理。
意外にもシンプルで、モリモリ食べられる家庭料理です。